梅ヶ香
薄く流すように香らせる。梅の枝を想像する。
あの時は緊張していたから、あまりゆっくりと眺められなかった。
それでもぼんやりと思い出せる。晴れた日を飾る白い花弁。
雨
何かを切り捨てるということが酷く苦手だ。人によっては、それはTVのチャンネルを切り替えるような感覚で行えるものらしい。でも私は、その決断に強い痛みを覚える。散々悩んで、そうするほかないだろうと結論を出し、実行してからも、しばらくは心臓に鉛を落とされたかのような憂鬱を味わう。
初めはそれが、自分の優しさ故だと驕っていた。でもそうじゃない。確かに相手の痛みを想像する。でもそれ以上に、手放すことそのものが恐ろしい。手放すということは、何か重大な、取り返しのつかない行為のように感じる。幼い日の痛みが重なるのかもしれない。実際には、私はもう大人で、相手も大人で。手を放したところで私の居場所がなくなってしまうわけではない。相手だって、世界の全てが私で出来ているのではない。だから大丈夫。どちらの存在も、どちらにとっても重大ではなく、それぞれの場所で、それぞれにとって居心地の良い場所を拡げていくだけだ。だから、なにも怖がる必要はない。
以前よりは決断が早くなった。感じる痛みも、ほんの少し、軽くなったと思う。